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2017年5月21日 (日)

桂枝加竜骨牡蛎湯:精神の安定によって

25番:桂枝茯苓丸、26番:桂枝加竜骨牡蛎湯と、桂枝を冠する方剤が続きます。「けいし か りゅうこつ ぼれい とう」です。

 

【金匱要略】
……(前略)、男子は失精し、女子は夢交す。桂枝加竜骨牡蛎湯之を主る。

<読み> 金匱要略:きんき ようりゃく、主る:つかさどる
<意味> 男性が性欲が衰えたときや、女性が夢の中で性交渉をしたように感じたときは、桂枝加竜骨牡蛎湯が良い。


桂枝湯に竜骨と牡蛎を加えた方剤です。竜骨、牡蛎は精神的な緊張を和らげます。



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(図1)「~~加竜骨牡蛎湯」と付く2つの方剤


桂枝加竜骨牡蛎湯は小児夜尿症や神経衰弱、性欲の衰え、悪夢をみるという症状に用います。また、パニック発作や抑うつ症状にも効くことがあります。

一方、柴胡加竜骨牡蛎湯は、比較的体力のある人の、イライラや不眠、抑うつなどに用います。驚きやすいという症状も治めるはたらきがあります。

精神的なもの、神経的なものは身体にも症状を及ぼします。

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(図2)竜骨・牡蛎の目標


柴胡加竜骨牡蛎湯は柴胡剤の一つで、胸脇苦満も一つの目安になります。他方、桂枝加竜骨牡蛎湯は下腹部の腹直筋の緊張が高まっていることがあります。

どちらも、精神安定の作用があって、重宝する方剤のようです。



2017年3月31日 (金)

桂枝茯苓丸:体格のよい女性ののぼせに


婦人科 三大漢方の3つ目、「けいし ぶくりょう がん」を扱います。背番号25番です。



【金匱要略】
婦人宿癥病有り、経絶ちて未だ三月に及ばず、漏下を得て止まず。・・・(中略)・・・血下る者、後絶つも三月なるは衃なり。血止まらざる所以の者は、其の
癥去らざるが故なり。当に其の癥を下すべし。桂枝茯苓丸之を主る。

<読み> 金匱要略:きんき ようりゃく、宿:もと、癥:ちょう、経:けい、断ち:たち、三月:みつき、止まず:やまず、衃:はい、所以:ゆえん、当に:まさに、主る:つかさどる

<意味> 女性がずっと前から腹部・骨盤あたりにしこりがあり、月経が途絶えて3か月には及ばない頃、おりものが出たものの止まらなくなった。・・・(中略)・・・おりものに血が混じって出て、その後も月経が途絶えたまま3か月を超えるのは、中に血の塊がある状態である。おりものに血が混ざり続けるのは、腹部・骨盤あたりのしこりが残っているからである。そのしこりを取り除くことが勧められる。このようなとき、桂枝茯苓丸が良い。


原文を読むと、”しこり”や”血の塊”に言及されています。桂枝茯苓丸は、いわゆる「瘀血(おけつ)」に使います。瘀血は血の流れが滞り、それによってのぼせや赤ら顔、頭痛、眼のくま、肩こり、月経不順、皮膚の荒れ、腹痛などを引き起こします。身体所見としては、臍の周りの圧痛が瘀血の手掛かりとされます。

この瘀血は、日本漢方が1930年代から復興を遂げる過程で、最も重視された概念の一つです。湯本求真(きゅうしん)が『皇漢医学』(1927)の中で論じたのが嚆矢であると伝えられています(参考:安井廣迪. 日本漢方と中医学(2) 「気・血・津液」と「気・血・水」. 伝統医学 Vol.1 NO.2 (1998.12) pp.58-59.)。多くの女性が抱える悩みの原因に迫る概念であり、また、男性に対しても用いられる概念です。

桂枝茯苓丸は、婦人科三大漢方の一角であると同時に、代表的な駆瘀血剤です。最も典型的には、体格がしっかりしていて赤ら顔の女性が更年期障害を抱えているときに用います。そして、にきびや皮膚の荒れが強く出ているときには、薏苡仁(よくいにん)を加えた桂枝茯苓丸加薏苡仁が勧められます。桂枝茯苓丸は漢方の背番号25番、桂枝茯苓丸加薏苡仁は背番号125番です。

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(図1)桂枝茯苓丸と桂枝茯苓丸加薏苡仁



ここで、婦人科三大漢方とプラスアルファをまとめます。

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(図2)婦人科三大漢方+α



疾患や症状に加え、ひとに合わせて選択できるのが漢方のいいところの一つだといつも感じます。




2017年3月 1日 (水)

加味逍遙散:多彩な訴えに対応する


「かみ しょうよう さん」と読みます。婦人科三大漢方薬は、23番:当帰芍薬散、24番:加味逍遙散、25番:桂枝茯苓丸、と並んでいて、真ん中に位置する薬です。


【和剤局方】
血虚労倦、五心煩熱、肢体疼痛、頭目昏重、心忪頬赤、口燥咽乾、発熱盗汗、減食嗜臥、及び血熱相搏、月水不調、臍腹脹痛、寒熱瘧の如くなるを治す。また、室女血弱、陰虚にして栄衛和せず、痰飲潮熱、肢体羸痩し、漸く骨蒸と成るを治す。


<読み> 和剤局方:わざい きょくほう、五心煩熱:ごしん はんねつ、頭目昏重:とうもく こんじゅう、心忪煩赤:しんしょう きょせき、盗汗:とうかん、減食嗜臥:げんしょく しが、血熱相搏:けつねつ そうはく、月水:げっすい、臍腹脹痛:せいふく ちょうつう、瘧:ぎゃく、栄衛:えいえい、和せず:わせず、痰飲潮熱:たんいん ちょうねつ、羸痩:るいそう、漸く:ようやく、骨蒸:こつじょう

<意味> 栄養を巡らせる血(けつ)が不足して疲労と倦怠感があり、両側の手のひら・足のうらと心胸部がほてり、手足と体幹部が痛み、頭部と目が垂れるように重く、心におそれが多く頬が赤くなり、口やのどが渇き、熱が出て寝汗をかき、食事が減って横になることを好むようになり、血と熱の病変が結びついて、生理が不調で、臍からお腹にかけて張って痛み、熱が低くなったり高くなったりをマラリアのように繰り返すとき、加味逍遙散がよい。また、あまり活発ではない女性が血が不足して、水も不足して、身体の表面をめぐる気のエネルギーと、身体の表面をめぐる気のエネルギーと身体の表面を守る気のエネルギーがうまくかみ合わず、よくない水が溜まって、熱がまるで潮の満ち引きのように高くなったり低くなったりし、手足と体幹部がとてもやせ、段々と身体の中から蒸してくるような熱さを感じるとき、加味逍遙散がよい。


原文には多くの症状が連ねられています。このように、加味逍遙散は、一度にさまざまな訴えをもつ患者に対して用いることができます。逍遥とは、「気任せにぶらぶら歩くこと」(角川国語辞典、第325版)をいいます。加味逍遙散は多彩な訴えが逍遥のごとく出てくる患者に用いられます。多彩な訴えのなかに、イライラや、上半身が熱く下半身が冷たい(上熱下寒:じょうねつ かかん)という所見がみられることが多いようです。


生薬の構成をみると、気、血、水に関する生薬をいずれも含みます。「加味」の部分に相当する、逍遥散に加えられた生薬は、山梔子(さんしし)と牡丹皮(ぼたんぴ)の2味です。山梔子は気にはたらき、牡丹皮は血に働きます。気の異常と血の異常の両方に対応するのが加味逍遙散ですが、気のめぐりをよくする作用が主であるとされています。


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(図1)加味逍遙散の構造



イライラしがちなときの、更年期障害や冷え、月経不順、多彩な不定愁訴によい一方です。




2017年2月28日 (火)

当帰芍薬散:やせている女性の腹痛に


婦人科三大漢方薬の一角を担う、当帰芍薬散「とうき しゃくやく さん」を扱います。


【金匱要略】
① 婦人懐妊腹中こう痛するは当帰芍薬散之を主る。
② 婦人腹中諸疾痛は当帰芍薬散之を主る。

※こう痛:「こう」は「病」だれに「巧」のつくり


<読み> 金匱要略:きんきようりゃく、疾痛:しっつう

<意味> ①女性が妊娠してお腹が痛むときは、当帰芍薬散がよい。 ②女性のお腹の様々な痛みや悩みによる痛みに、当帰芍薬散がよい。


原文はとてもシンプルで、力強いです。悩みを背景とした、女性の腹痛に用います。妊娠中でも使える漢方薬の代表的なものです。


より具体的には、月経痛、月経不順、更年期障害、妊娠中の浮腫や腹痛、産後のケア、女性の倦怠感などに用います。色白でやせ型の、いわゆる
〝当芍美人″の方に、適しています。貧血、冷え症やめまい、気力のなさは、処方にあたり参考になります。また、不妊治療にも用いることがあるようです。

色白でやせている女性の腹痛を治すために、当帰芍薬散は、2つの側面を持っています。
1) 栄養を補う、それによって痛みを緩和する
2) 余分な水をさばく、停滞した水をめぐらせる

1)のはたらきは「補血」、2)のはたらきは「利水」と呼ばれるものです。補血を行ううえで核となる方剤は四物湯(しもつ とう)、利水の核となる方剤は四苓湯(しれい とう)ですが、当帰芍薬散はこの2つの方剤を組み合わせて、そこから一部の生薬を引いた形になっています。引いたことにも理由がありそうです。

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(図1)当帰芍薬散に隠された引き算



すらっとしていて、色白で、思慮深く、どちらかというと虚弱なタイプの女性の、力になる一剤です。悩みや月経、更年期にかかわる腹痛を和らげます。妊娠中の女性や、胃腸が弱い女性にも用いることができる、貴重な一方です。


2017年2月27日 (月)

消風散:かゆみのある雲片を消す


「しょうふう さん」です。『外科正宗(げか せいそう)』という書物を出典とする漢方薬です。『外科正宗』は漢方薬の出典としては珍しい類に入ります。


【外科正宗】
風湿、血脈に侵淫し、瘡芥を生ずるに致り、瘙痒絶えざるを治す。及び、大人、小児の風熱、癮疹身に遍く、雲片斑点、たちまち有り、たちまち無き、並びに効あり。


<読み> 
侵淫:しんいん、瘡芥:そうかい、瘙痒:そうよう、癮疹:いんしん、遍く:あまねく、雲片:うんぺん
<意味> 風邪と湿邪が、体内の血の通り道に深く入り込み、皮膚にできものや小さなブツブツができて、痒みが絶えない状態であるとき、消風散がよい。また、大人でも子供でも、熱を伴う風邪に侵され、しつこいはれものや吹き出物が全身のあちらこちらに出て、雲のかけらのような斑点が短時間に出たり消えたりするときにも、消風散は効果がある。


消風散は、皮膚の疾患に用いられます。典型的には、
分泌物が多くて、かさぶたをつくり、かゆみが強く、夏に増悪するような皮疹に、適していると言われています。特に、かゆみに効くようです。原文中の「雲片」は、全身にかゆみの強い湿疹が現れる、重度のアトピー性皮膚炎を描写しているように感じます。

皮膚疾患に用いる漢方薬は、様々なものがあります。漢方の治療の考え方には、大きく分けて、「標治(ひょうち)」と「本治(ほんち)」があります。皮膚疾患で考えると、皮膚所見を診て、それを直接治していこうとするアプローチが「標治」、全身所見とあわせて考えて身体の体質から治していこうとするアプローチが「本治」です。どちらにも、多くの漢方薬が役立つ可能性があります。

ここでは、皮膚疾患の「標治」に用いる漢方薬を、これまで出てきた中でまとめておきます。標治と本治は厳密には分けがたく、重複する部分も大いにあります。

(表1)皮膚疾患に用いる漢方薬(1番~22番までで)

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消風散は13の生薬を組み合わせて作られています。その中には、身近な食べ物も含まれています。「胡麻(ごま)」です。ごまが含まれる一般的な漢方薬は、消風散と塗り薬の「紫雲膏(しうんこう)」だけです。ごまは、不飽和脂肪酸と抗酸化成分を多く含み、健康によいことが知られています。消風散を服用しているときは、ご飯でごまを摂るのも良いかもしれません。

消風散は、細かなできものや雲片のような皮疹のかゆみを消す漢方薬です。


2017年2月26日 (日)

小半夏加茯苓湯:つわりの時に冷服する


21番の漢方薬は、小半夏加茯苓湯です。「しょう はんげ か ぶくりょう とう」と読みます。半夏、茯苓、生姜(しょうきょう)の3つの生薬で作られています。

【金匱要略】
卒に嘔吐し、心下痞し、膈間に水有り、眩悸する者は、小半夏加茯苓湯之を主る。先ず渇して後に嘔するは、水心下に停すと為す。此れ飲家に属す。小半夏加茯苓湯之を主る。


<読み> 金匱要略:きんきようりゃく、卒に:にわかに、痞し:ひし、膈間:かくかん、眩悸:げんき、主る:つかさどる、先ず:まず、飲家:いんか
<意味> 急に嘔吐し、みぞおちのあたりがつかえ、胸と腹の間に水がうっ滞していて、めまいや動悸がするときは、小半夏加茯苓湯がよい。最初に口が渇いて、そのあとに嘔吐をするのは、水がみぞおちのあたりに停滞しているからであると考えられる。この水は、痰飲(たんいん)という良くない水に分類される。このようなときは、小半夏加茯苓湯がよい。


小半夏加茯苓湯は、吐き気や嘔吐を伴うつわりに用いられます。急性胃腸炎などの嘔吐や、めまいを伴う嘔吐・吐き気にもよいとされています。

利水剤の一つで、みぞおちのあたりに溜まった水をさばく働きがあります。妊娠時は体内の水分が大きく増えて、水の流れが滞りがちになります。そうして生じたつわりを、半夏・茯苓・生姜の力を借りて治していきます。

半夏は嘔気・嘔吐を治す主薬です。茯苓が水をさばいて、半夏の働きを助けます。また、生姜は半夏の毒を消します。

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(図1)小半夏加茯苓湯と半夏厚朴湯


ここで、漢方薬の飲み方についてまとめておきます。漢方薬は多くはお湯に溶かして飲むと効果を最大限に引き出せますが、例外があり、嘔吐や嘔気に用いる漢方薬は、水で飲みます。小半夏加茯苓湯も水で飲むのがよいわけです。

≪漢方薬の飲み方≫

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妊婦に薬を用いるときは注意を要しますが、小半夏加茯苓湯はきっと役に立ちます。つわり、水滞による嘔気・嘔吐に対する妙薬です。




2017年2月19日 (日)

21番から30番の漢方薬:後漢からも明からも


目次を兼ねて、21番から30番の漢方薬とその出典を記します。

21番:
小半夏加茯苓湯 …『金匱要略』に由来
22番:
消風散 …『外科正宗』に由来
23番:
当帰芍薬散 …『金匱要略』に由来
24番:
加味逍遙散 …『和剤局方』に由来
25番:
桂枝茯苓丸 …『金匱要略』に由来

26番:
桂枝加竜骨牡蛎湯 …『金匱要略』に由来
27番:
麻黄湯 …『傷寒論』に由来
28番:
越婢加朮湯 …『金匱要略』に由来
29番:
麦門冬湯 …『金匱要略』に由来
30番:
真武湯 …『傷寒論』に由来


一見して、『金匱要略』を出典とする方剤が多いです。他方、『外科正宗(げか せいそう)』という珍しい古典も見られます。

『外科正宗』は、明代の1617年にまとめられた外科の医学書です。陳実功という外科医が長年の経験を4巻に記述しています。陳先生は、外科的な処置を重視するとともに、胃腸を調える大切さを主張したと伝えられています。過度の絶飲食には反対したようです。外科と内科の〝バランス″を保つ姿勢は、中国医学らしさを感じさせます。

明代は、元末期の戦乱を終えて、平和の世を迎えて、文化が集大成していった時代です。漢方薬についてまとめた大書の一つ『万病回春(まんびょう かいしゅん)』や、生薬についてまとめた『本草綱目(ほんぞう こうもく)』もこの時代に完成しています。医学以外のところでも、人生の処世訓を記した『菜根譚(さいこんたん)』が上梓されています。

21番から30番の漢方薬には、後漢の時代に書かれたとされる『傷寒論』『金匱要略』を出典とする方剤が多いですが、こうして明代から伝わる一剤も含まれていました。





2017年2月12日 (日)

防已黄耆湯:肥満傾向だが寒気を感じる


「ぼうい おうぎ とう」と読みます。典型的には、水太り体質の人の変形性膝関節症に用いる漢方薬です。


【金匱要略】
風水脉浮、身重く汗出で悪風する者は、防已黄耆湯之を主る。腹痛めば芍薬を加えよ。


<読み> 金匱要略:きんきようりゃく、脉浮:みゃくふ、汗出で:あせいで、悪風:おふう、主る:つかさどる

<意味> 風邪(ふうじゃ)と湿邪(しつじゃ)が身体の表面浅いところを侵して脈が浮き、身体が重く汗が出て風に当たると寒気を感じるときは、防已黄耆湯が良い。腹痛があるときは、芍薬を加えて用いると、より良い。


単純なようで、なかなか面白い原文です。

風水
漢方では、外から来る病邪を6つに分類しました。「風・寒・暑・湿・燥・火」で、これを「六淫(ろくいん)」と呼びます。淫はじわじわと染み込む、みだすという意味です。風邪(ふうじゃ)は風邪(かぜ)のような発熱、悪寒を引き起こす外邪で、湿邪(しつじゃ)は水や湿気の過多のことで関節の痛みや手足の倦怠感を招きます。かぜや湿気、水に長時間さらされる仕事が関節痛の引き金になる、と示唆されています。

脉浮
脈をみる基本は、脈が浮いているか、沈んでいるか、です。

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(図1)浮脈と沈脈

防已黄耆湯は、かぜなどが身体の表面浅くを侵し、それがきっかけとなって、関節痛や手足の倦怠感が悪化した場合を想定しているようです。

身重く汗出で悪風する
水太りで、身体の筋肉がしまっておらず、どちらかというと虚弱な方を思い描きます。防已黄耆湯は筋肉がしまっていない状態に対して用い、漢方薬62番の防風通聖散(ぼうふう つうしょう さん)は筋肉がしまっている状態に対して用います。


腹痛めば芍薬を加えよ
防已黄耆湯は、身体の中に偏在した水をさばき、手足の痛みや関節痛を和らげるように作られています。しかし、この方剤の構成生薬6つでカバーしていないのが、腹部の痛みです。

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(図2)防已黄耆湯と芍薬


先日、漢方の講演会で、漢方薬の構成生薬数は7味が多く、一つの目安になると聴きました。たしかに、防已黄耆湯の6味に芍薬を加えるとちょうど7味で、水太り体質の方の関節痛、四肢の痛み、腹痛にしっかり対応しているように感じます。

黄耆(おうぎ)という生薬には、気というエネルギーを補うはたらきもあります。防已黄耆湯は〝さまざまな疾患による消耗と浮腫、とくに食が細く全身倦怠感を伴う場合″にも、良いようです。(参考: 浅岡俊之 先生著 『Dr.浅岡の本当によくわかる漢方薬』、羊土社、2013年)




2017年1月29日 (日)

小青龍湯:心下に水気あり


青龍という、ちょっとかっこいい名前をもつ一方です。鼻水や水様の痰、咳、〝鼻水が主体の″花粉症に用います。

【傷寒論:太陽病中篇】
傷寒、表解せず心下に水気有りて、乾嘔、発熱して
欬し、或いは渇し、或いは利し、或いは噎し、或いは小便利せず、小腹満し、或いは喘する者は、小青竜湯之を主る。

<読み> 心下:しんか、表解:ひょうげ、欬す:がいす、噎し:いつし、満し:まんし、喘する:ぜんする、主る:つかさどる
<意味> 風邪を引いて、身体の表面浅くにとどまっている病邪を追い出せず、みぞおちに水のエネルギーがあって、からえずきをし、熱が出て咳をしたり、口やのどが渇いたり、下痢をしたり、むせたり、尿が出にくかったり、下腹部の両側が膨満したり、あえいだりするときは、小青龍湯がよい。


「心下に水気有り」が肝要です。原文の頭の方に書かれていて、そのあとに心下の水気によって引き起こされる諸症状が並べられています。青龍の青のイメージ通り、身体の真ん中あたりの大事なところにある「水気」を、散ずることが、小青龍湯の要になります。また、小青龍湯はその構成生薬から、温めるはたらきを持っていることもポイントです。


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(図1)心下に水気有り


青龍は中国の四神の一つで、方角では東に位置します。中国から地理的に見て、東は日本海や東・南シナ海です。そう、東に青々とした海原が広がっていたから、東に青龍を位置付けたのだと、昨年実習に行かせていただいた九州の病院でお聴きしました。


さて、漢方では、青龍は麻黄(まおう)という生薬を指します。麻黄は強く発汗させて風邪の初期を治します。強い生薬ゆえ、もろ刃の剣の側面もあり、副作用に気を付ける必要があります。複数の漢方薬の併用で麻黄の量が多くなってしまったり、長期に投与したりするときは、動悸や頻脈、めまい、立ちくらみ、胸苦しさ、悪心・嘔吐、不眠、イライラ、必要以上の発汗、舌のしびれに注意します。


効能が鋭く、短い期間で効きやすい、しかし、副作用もあり長くは飲めない――そのような生薬を「下品(かほん)」と分類します。一方、効能はゆっくり現れるが、長く飲み続けられる生薬は「上品(じょうほん)」です。上品と下品の中間は「中品(ちゅうほん)」に位置付けられます。

麻黄は中品に分類されますが、小青龍湯をはじめとする麻黄湯類には下品に分類される生薬も含まれており、長期の服用には注意が必要です。特に、アレルギー性鼻炎に小青龍湯を用いるときは、投与期間が長くなりすぎないように気を付けます。


(表1)生薬の分類
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ところで、小青龍湯の「小」は何を意味するのでしょうか。一般に、方剤名の頭に付く「大」や「小」は、漢方薬による治療の速さを表します。「大」青龍湯が即効性を求める、インフルエンザなどの場面で用いるのに対して、「小」青龍湯はもう少し緩徐にじっくり治していく、鼻水や咳に対して用います。緩徐に治すとはいえ、あくまでも麻黄湯類であるので、長期の投与は避けます。

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(図2)小青龍湯、麻黄湯、大青龍湯の比較


なお、動悸や頻脈などの副作用を避けたくて、あるいは妊婦のため、麻黄を使いたくない場合で、小青龍湯の効きそうな鼻水や痰、咳、花粉症を治したいときは、
「苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみ しんげにん とう)」を用います。苓甘姜味辛夏仁湯は、小青龍湯から麻黄を除いたような構成になっています。覚えやすくするためか、小青龍湯は漢方薬19番、苓甘姜味辛夏仁湯は漢方薬119番です。

青龍にたとえられるほどの効能をもった麻黄ですが、現代でもなお、その力を大事に使っていきたいところです。




2017年1月20日 (金)

桂枝加朮附湯:痛みと麻痺に


痛みに対応するために、工夫されてきた一方です。

原文は、「桂枝加附子湯」のものになります。桂枝加附子湯に蒼朮(そうじゅつ)を加えると、桂枝加朮附湯ができます。


【傷寒論:太陽病上篇】
太陽病、汗を発して遂に漏れ止まず、其の人悪風し、小便難く、四肢微急し、以って屈伸し難き者は、桂枝加附子湯之を主る。


<読み> 悪風:おふう、(小便)難く:かたく、微急:びきゅう、主る:つかさどる
<意味> 急性熱性疾患を患ったが、強く汗を出させる治療をしてしまい、汗が出て、それがきっかけとなって汗がもれてやまなくなってしまい、その患者が風に当たると寒気を感じ、尿がなかなか出にくく、手足が軽くひきつれて、曲げたり伸ばしたりすることがしにくくなってしまった。そのようなときは、桂枝加附子湯がよい。


原文は、急性熱性疾患を治療するときに、汗を少し出す治療をすべきところを、汗を強く出させすぎてしまった・・・さて、どうしよう、という文脈にあります。漢方では、急性熱性疾患の最初の治療のポイントは、「発汗」です。どのくらい発汗させるかが重要になってきます。

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(図1)急性熱性疾患の初期の治療



治療を間違えたとき、風に当たると寒気を感じる症状、「悪風(おふう)」が生じます。桂枝湯も温めるはたらきがありますが、温める作用を一段階強める必要がありそうです。そこで、強く温める附子(ぶし)が加えられたわけです。


今日では、原文の後半部分「四肢微急し、以って屈伸し難き者」(手足が軽くひきつれ、曲げたり伸ばしたりしづらい)を応用して、神経痛やリウマチ、脳出血後の麻痺などに使います。水がたまると痛みを誘発することから、水をさばいて痛みをとる蒼朮を加えて、桂枝加朮附湯が用いられます。さらに、浮腫が目立つときは、水をさばく茯苓(ぶくりょう)を足して、効果を高めます。

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(図2)桂枝加朮附湯の誕生


痛みや麻痺に効く桂枝加朮附湯ですが、原文の前半部分にある記載は、使用のヒントになるかもしれません。付随症状として、冷えがあることが重要です。

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(図3)桂枝加朮附湯の効能と手がかり


どこに行こうとも、いつであっても、痛みはつらい。痛みをとるために、生薬を重ねて作られたのが、この桂枝加朮附湯です。漢方の18番を背負っています。



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